女性のニキビや薄毛に「スピロノラクトン」

スピロノラクトン(spironolantone)は、本来カリウム保持性利尿薬として、日本では昔から高血圧や心不全、浮腫などの治療薬として使われてきた利尿剤です。長期間使用することで女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があると報告されたことをきっかけに、男性ホルモンであるアンドロゲンの受容体をブロックする作用があることが後に判明しました。この「抗アンドロゲン作用」を利用し、女性の大人ニキビと女性の薄毛(FAGA)を同時に改善するアプローチが可能となりました。特にホルモンバランスの変化に悩む30代以降の女性にとって、内側から肌と髪の両方を整える選択肢として、大きな期待が寄せられています。
治療対象となる方
成人女性のニキビ
- 顎周りや口周りに生じる大人ニキビ
- 生理前に悪化するニキビ
- 成人以降で悪化しだしたニキビ
- 皮脂が多いタイプの肌質のニキビ
- 保険治療で改善に乏しい女性のニキビ
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)といった婦人科系の疾患で男性ホルモン値が上がり、ニキビや薄毛が気になる方
女性の薄毛(FAGA)
- 年齢とともに薄毛が目立ってきた40代以降の女性の方
- 分け目や生え際の薄毛が気になる女性の方
- 外用ミノキシジルのみでは不十分なケース
- より進行抑制を強化したい場合
- 妊娠中・授乳中・妊活中の方は使用できません。内服中は確実な避妊が必要です。
- 男性には用いません。男性の薄毛(AGA)治療には、抗アンドロゲン作用のある「フィナステリド(プロペシア)」や「デュタステリド(ザガーロ)」がより効果的であり、男性の難治性ニキビには「イソトレチノイン」の主に使用されます。
女性の薄毛と大人ニキビが併発する理由
加齢によるエストロゲン減少
30代を過ぎると女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が低下し始めます。エストロゲンは肌の潤いを保ち、髪の成長をサポートする貴重なホルモンです。更年期に差し掛かるとエストロゲンが急激に減少するため、これまで気にならなかったトラブルが表面化し始めます。相対的に以前は目立たなかった微量な男性ホルモンが優位になり、ホルモンバランスの崩れから、肌のターンオーバーの乱れや毛髪密度の低下が生じてきます。
ストレスや生活習慣の乱れ
精神的なストレスは自律神経を乱すだけでなく、副腎からの男性ホルモン分泌を促すきっかけとなります。また不規則な食事や睡眠不足は、肌や髪の細胞が生まれ変わるのに必要な環境を乱してしまいます。忙しい現代の女性にとって、整った生活を維持し続けるのはなかなかハードルが高いことですが、少しでもストレスがかかる状態をなくし、体の戦闘モードを解消していくことや、必要な栄養素をサプリの力を借りて摂っていくこと、ホルモン値を薬を用いて整えてあげることは、心身の安定を取り戻すための有効な手段となります。
スピロノラクトンが薄毛を改善させる理由
女性のからだでも男性ホルモンは分泌されていますが、その受容体が敏感に反応すると、肌荒れや抜け毛が加速します。スピロノラクトンには、AGAの主原因として考えられているジヒドロテストステロンの男性ホルモン受容体への結合を阻止し、抗男性ホルモン作用を持つため、男性ホルモンが相対的優位になる結果薄毛が発症してしまう、FAGAに対して有効とされています。男性ホルモンにより髪の成長期が短くなり、休止期が長くなることで髪が十分に育たず薄毛が生じてしまいますが、スピロノラクトンにはこの負の連鎖を断ち切り、ヘアサイクルを整える効果があります。

スピロノラクトンがニキビを改善させる理由
ニキビは男女問わず、10代から30代の顔面や上背部、前胸部の皮脂が溜まりやすい部分に多く見られます。なかでも成人女性において大人になってから発症する、大人ニキビの原因の一つとして、顎周りなどの皮脂腺が男性ホルモンの影響で活発になることが挙げられています。スピロノラクトンには、毛包や皮脂腺のアンドロゲン受容体をブロックすることにより、皮脂の過剰な分泌を抑制し、毛穴が詰まりにくい環境が作られていきます。皮脂によるベタつきが解消されることで、ニキビの原因となるアクネ菌の増殖も抑えられます。

当院での治療方針
皮脂抑制・ニキビ治療目的
50mg/日(1日1回)で開始し、おおむね6週で忍容性と効果を評価して100mg/日に増量を検討します。
効果の出現の目安は8〜12週くらいで、24週で差が明瞭になりやすいです。
女性の薄毛(FAGA)目的
25〜50mg/日で開始し、反応と副作用に応じて50→100mg/日を中心に調整します。
必要に応じて150〜200mg/日まで検討することもありますが、200mg/日は上限ギリギリのため、体質・血圧・月経への影響を見ながら慎重に判断します。
外用ミノキシジル併用が一般的で、効果の目安は3〜6か月程度で出現してくることが多いです。
安全面を考慮した漸増方法
低血圧傾向や副作用が心配な場合は25mg/日から開始→数週ごとに増量も可。
ただしニキビに対しては50〜100mg/日のほうが効果が出やすいことが多いです。
- 採血によるモニタリング
原則として、開始前もしくは開始直後に、腎機能(Gre/eGFR)・カリウム(K)を確認します。
開始後は3か月ごとに同項目のモニタリングを行っていきます。
若年で基礎疾患のない方のニキビ治療では、高K血症がまれとする報告があり、状況により採血頻度を減らす場合があります。一方で45歳以上、腎機能低下、ACE阻害薬/ARB/カリウム製剤などの併用ケース、増量時は定期的な採血が推奨されます。
注意すべき副作用
スピロノラクトンを服用すると、以下のような副作用が現れる場合があります。
- 頻尿
- 電解質異常
- 月経不順・不正出血・乳房の張り/圧痛
- めまい
- 血圧低下
- 食欲不振や悪心・嘔吐などの消化器症状
注意事項
- 降圧作用によるめまいなどが現れる場合があるため、高所作業や自動車などの運転には注意してください。
- 男性や妊娠中の女性での内服は推奨されていません。
スピロノラクトンと他の治療法との比較
スピロノラクトンと他の治療法との比較(薄毛治療)
| スピロノラクトン | ミノキシジル | フィナステリド | デュタステリド | |
|---|---|---|---|---|
| 剤形 | 内服 | 内服・外用・注入 | 内服・注入 | 内服 |
| 作用機序 | 抗アンドロゲン作用による、脱毛の抑制 | 毛包への血流改善による、発毛の促進、毛周期の改善 | 髪の成長を阻害するDHT(ジヒドロテストステロン)へ変換する酵素「5α-還元酵素Ⅱ型」を抑制する | 髪の成長を阻害するDHT(ジヒドロテストステロン)へ変換する酵素「5α-還元酵素Ⅰ型およびⅡ型」を抑制する |
| 対象 | 女性のみ | 男女両方 | 男性のみ | 男性のみ |
| 副作用 | 頻尿、生理不順、倦怠感 | 多毛、動悸、頭痛、むくみ(内服) | 性欲減退、肝機能障害 | 性欲減退、肝機能障害、女性化乳房 |
スピロノラクトンと他の治療法との比較(ニキビ治療)
| スピロノラクトン | イソトレチノイン | 抗生剤 | 面皰治療薬 | |
|---|---|---|---|---|
| 剤形 | 内服 | 内服 | 内服・外用 | 外用 |
| 作用機序 | 抗アンドロゲン作用による皮脂分泌抑制 | 皮脂腺を強力に縮小させる、毛穴の角化を正常化させる | アクネ菌の増殖抑制と、炎症そのものを抑える | 毛穴の詰まり(角化)を改善し、アクネ菌の繁殖を抑える |
| 対象 | 女性のみ | 重症ニキビ、男女両方 | 炎症を伴うニキビ、男女両方 | ニキビ全般、男女両方 |
| 副作用 | 頻尿、生理不順、倦怠感 | 催奇形性、皮膚や粘膜の乾燥、肝機能障害、脱毛、うつ病 | 消化器症状、光線過敏、めまい・頭痛 | 使い始めに刺激症状(赤み、ヒリヒリ、皮むけ)、稀に接触性皮膚炎 |